花束〜Bouquet〜【短編】
向かった先は、華菜の家の前だった。
勢いで花を買ってきたはいいが、華菜はまだ仕事中。
花束を抱えて玄関先に立っているのは、かなり恥ずかしかった。
「蒼ちゃん!?」
顔を隠すように俯いていると、遠くから驚いた顔をした華菜が走ってきていた。
いつの頃からか、華菜は俺を“蒼ちゃん”と呼ぶようになっていた。
「‥これ」
俺は、ぶっきらぼうに花束を差し出した。
「えっ?えっ!?」
華菜はただただ驚きを隠せずにいた。
不器用な俺は、なにか甘い言葉をかけることもできずにただ華菜の姿を見つめていた。
「かすみ草の花言葉は“清らかな心”。あと、“感謝”という意味もあるんですよ」
花屋の店員が言っていたことがふと、頭をよぎる。