花束〜Bouquet〜【短編】
予定していた曲を全て歌い終え、頭を下げた。
彼女の他に数人いた客がぱらぱらと拍手をしてくれた。
そして、また夜の道を歩いていく。
ただ彼女一人だけがその場に座ったままだった。
俺にまっすぐ向けられる視線に変な汗が吹き出る。
話しかけるなら今だ
と、咄嗟に思った。
しかし、心と体は別物でそんな簡単に素直に体が動くわけがなく。
ギターをケースにしまい、
逃げるように彼女に背を向け歩き出そうとした。
自分の情けなさに腹をたてながら、その場から立ち去ろうとした。
「あの!」
可愛らしい、少し高めの声が背中から聞こえてきた。
驚いて振り向くと、そこには俯きぎみな彼女の姿があった。
俺を呼び止めたがいいが、どうしたらいいもんかと戸惑っているようだ。
突然の出来事に俺は思わず固まってしまった。
彼女は、ひとつ小さく深呼吸して顔を上げ、口を開いた。