花束〜Bouquet〜【短編】


付き合ってからも、俺達は特に何も変わらない。

若い学生の恋愛のようにベタベタしたような関係ではなかった。

むしろ、会う回数は付き合う前より減っていた。

なぜなら‥

“ミュージシャン”という夢。

俺は、その夢を捨てる決意をして仕事を本格的に始めた。

アーティストとしての自分の実力に見切りをつけたのだ。

所詮、道端で歌っているだけの俺にその道で食っていける稼ぎはない。

彼女との将来を考えるのであれば、当たり前と言えば当たり前の決断だった。


彼女は俺が夢を諦めることに、反対した。

お金のことはなんとかするから、と言われた。
いや、むしろ言わせてしまった。

俺があそこで歌うことが好きなのは、彼女が一番よくわかっていたからだろう。

しかし、それは俺のちっぽけなプライドが許さなかった。

ただ、たまに路上で歌うのを聴かせて、という彼女の願いは受け入れることにした。



< 9 / 15 >

この作品をシェア

pagetop