花束〜Bouquet〜【短編】
付き合ってからも、俺達は特に何も変わらない。
若い学生の恋愛のようにベタベタしたような関係ではなかった。
むしろ、会う回数は付き合う前より減っていた。
なぜなら‥
“ミュージシャン”という夢。
俺は、その夢を捨てる決意をして仕事を本格的に始めた。
アーティストとしての自分の実力に見切りをつけたのだ。
所詮、道端で歌っているだけの俺にその道で食っていける稼ぎはない。
彼女との将来を考えるのであれば、当たり前と言えば当たり前の決断だった。
彼女は俺が夢を諦めることに、反対した。
お金のことはなんとかするから、と言われた。
いや、むしろ言わせてしまった。
俺があそこで歌うことが好きなのは、彼女が一番よくわかっていたからだろう。
しかし、それは俺のちっぽけなプライドが許さなかった。
ただ、たまに路上で歌うのを聴かせて、という彼女の願いは受け入れることにした。