ただ、そばにいて。
 瑞希は黒い窓ガラスに映った自分の顔をぼんやり眺めた。

 二十七歳。オバサンではないが、胸を張れるほど若くもない。
 ミディアムショートの髪に縁どられた、小さな卵型の輪郭。二重の大きな目は、猫みたいだとよく言われる。
 ふっくらとした涙袋。うすく開いた、肉感的な唇。

 この時間でもメイクは崩れていない。
 けれど覇気がなく、まるでつくりもののマネキンみたいだ。

 厚みのあるベージュのダウンコートは、体のラインがきれいに見えるものを選んだ。顔立ちが派手なほうなので、着るものには気を遣っている。


 電車のなかにいる人たちの目には、私はどんなふうに映っているのだろう。

 不倫をするような、浅はかな女に見えるだろうか。
 仕事で辣腕をふるうキャリアウーマンに見えるだろうか。
 それとも、ひとりぼっちの寂しい女に見えるのか。

 でも、本当の自分がどうなのかなんて、自分自身にもわからない。
 もしかしたら、すべてが正解なのかもしれないし、どれも違っているかもしれない。
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