ただ、そばにいて。
 駅を三つ通過すると人もだいぶ減り、目の前にいた酔っぱらいもいつのまにか消えていた。
 同じ車輛に乗っているのは十名ほどで、おもしろいほど等間隔でロングシートに座っている。

 静かにパーソナルエリアを守り続ける乗客たちのなかで、ひと駅前に乗ってきた三人組の女子大生がきゃぁきゃぁはしゃいで目立っていた。

 合コンの帰りなのだろうか。今日会った相手を評価している。

 顔は合格点。話も面白い。
 でもお金はなさそう。
 じゃ、だめだ。
 今度誰か紹介して。
 医大生と合コンなんてどう? 
 いいね、いつにする?

 長い巻き髪、つやつやの唇、エクステとマスカラで膨れあがった睫毛。
 見た目も話す内容も三つ子のようにそっくりだ。


 一緒に住んでいる妹の柚月《ゆづき》を思い出す。

 柚月は市内の私立大学に通っている六つ年下の妹だ。英文科の三年生で、欧米文学史を専攻している。

 冬休みに入ったので、友人と海外旅行に出かけると言っていた。
 この時期オフシーズンであるヨーロッパに、十泊十三日で貧乏旅行をするのだそうだ。

 今日の昼には、家を出たはずだ。
 けれど、二週間分の荷物は直前になっても用意できず、今朝もあれがないだのこれがないだのと騒いでいた。

 リビングを散らかしたままの柚月に、ちゃんと片付けてから出かけろと言ったのだが、果たしてどうなっただろうか。


 両親に甘やかされて育った柚月は、世のなかは自分を中心に回っていると思っている。

 若者特有の万能感とでもいうのだろうか。
 なにをしても許され、自分が手を下さなくても生活が成り立っていると思っている。

 瑞希が風呂を掃除し、トイレットペーパーのストックを買い、毎週決まった日にゴミを捨てていることなど、もしかしたら気付いてさえいないのかもしれない。

 期待はできないな。
 疲れて帰った家で、荒れた部屋を目の当たりにし、ため息をつく自分の姿を安易に想像できた。
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