ただ、そばにいて。
 定禅寺《じょうぜんじ》通りに面したダイニングレストランは、ふたりが会うときの定番の店だった。
 店内はすべて個室になっていて、秘密の逢瀬を重ねるカップルにとっては都合がいいのだ。

 アンティークを基調としたインテリア。
 上品で味の良い料理。
 さまざまな国から集められたワイン。

 照明のトーンを落とした室内にはキューブ型のグラスに入ったキャンドルが灯り、大きな窓からクリスマス色に輝く並木道が一望できる。


 冬の寂しさを紛らわすように、夜の街はキラキラ輝いてた。

 イルミネーションをまとったケヤキの街路樹、グラスのなかできらめく氷、目の前の皿に載せられた宝石のようなアイスプラント。

 でもどこか無機質で、美しく輝いてはいるが人工的な冷たさも感じる。


 男の薬指にはめられた指輪もまた、控えめな光をまとっていた。
 あえて見ないようにしてきた、プラチナの指輪。

 一生身に着けるものほど、シンプルにできているのかもしれない。
 彼のそばに寄り添う妻は、きっとこの指輪のように、謙虚で上質な人なのだろう。
< 2 / 51 >

この作品をシェア

pagetop