ただ、そばにいて。
 瑞希のつま先が悠斗のふくらはぎにあたった。
 風呂から上がったばかりなのに、もう体が冷たくなっている。
 悠斗は足もとにたたまれていた掛け布団を広げ、ふたりの上にかぶせた。

「そういえばうちの姉も、冷え性で悩んでいました」

 瑞希の柔らかい肌に気を取られないよう、関係のない話題を振る。
 瑞希は顔を上げて悠斗の顔をまっすぐに見た。

 意志の強そうな大きな瞳。
 ふっくらした涙袋。
 長い睫毛はしっかりと上を向き、素顔のはずなのに、その顔立ちは美しいままだ。

 瑞希は「お姉さんがいるんだね」と言いながら、長い睫毛を伏せて悠斗の首筋に顔をうずめた。

 昨日もおとといもこうして肩を寄せあって眠ったはずなのに、心の緊張がだんだん強まっていくような気がする。

 悠斗は鼓動を鎮めようと息を止めた。
 すると瑞希が、そんな悠斗の様子に気が付いて笑った。

「そんなに緊張しないでよ。食べたりしないから」

 からかうようにそう言うと、瑞希は悠斗の体に腕を巻きつけた。

「なにか話をして」
「どんな話がいいですか?」
「そうね……お店に来る、変わったお客さんの話が聞きたい」

 悠斗は、月に二、三度やってくる男性客の話をした。
 その人はカウンターのいちばん奥が指定席で、食前に必ず水を三杯飲む。

「ダイエット中なのかしらね」
 瑞希は笑う。

 なにげない話をしているうちに、あっというまに瑞希は眠りに落ちていった。
 安らかな寝顔を見て、悠斗も安堵しながら目をつむる。

 彼女の見る夢は、いま、どんな色をしているのだろう。
 もっともっと、瑞希のことを知りたい。
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