レス・パウダーレス

大人になると、自分たちを見せ合うより先に、付き合う枠が用意される気がする。

そしてゆっくり、満たしていくんだ。注ぐように。

「好きだから抱き合うのだ」と、ちゃんと、言い訳ができるように。


いつもより少し幼く見える寝顔を見つめながら、思う。


……ねえ、三口さん。あなたはどんな青春時代を過ごしましたか。

ワインを覚える前は、どんな飲み物を好んでいましたか。

わたしはレモンティーだったかな。コンビニで売られている市販のペットボトル。

どれが一番冷えているか確認して、選んで買っていました。

夏にそれをゴクリと飲み込むのが、とても好きでした。

わたしが好きでたまらなかった人も、それが好きでした。

半分ずつ、分け合って。冬はミルクティーがいいかな、なんて話をしました。

手をつなぐ瞬間は、何度繰り返しても緊張してしまって、お互いに、くちびるが真一文字になっていました。


思い出は美化されるって言うけれど、まさしくその通りだ。

わたしの中にあるあの頃は、いつだってキラキラしている。

いいなぁ、と思う。もう二度と戻ることができない、今のわたしには決して訪れることのないもの。

思い出は、スクリーンに大きく映されるようなものじゃなくて。

リアルに動いたりもしない、絵葉書のようなもので。


でもそれは、ずっと持ち歩けてしまうサイズで。


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