レス・パウダーレス

パ、と短いクラクションが鳴り、わたしは一気に、現実に引き戻された。

目が覚めた気がした。頭の中に広がっていた映像は、電源を落としたパソコン画面のように、一瞬で消える。

音の聞こえた方を見ると、一台の黒っぽい車が、わたしの数メートル先に止まっていた。

早足で歩み寄って、助手席のドアに手をかける。


「ごめんね。お待たせしました」


ドアを開いた途端に響いた、三口さんの声。

わたしの感傷を切り離すような、落ち着いた、現実感を持った声だった。


「いえ、来てくれてありがとうございます」

「はは、うん。乗って」


三口さんに言われる通り、ヒール靴から踏み入って、シートに座る。

すぐに動き出した車は、あっという間に、わたしがさっきまで居た場所を置いていく。

目だけを動かして、バックミラーを見た。

わたしの過去を写し取ったようなあの子たちは、長方形の枠の中で粒になって、やがて消えた。




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