レス・パウダーレス

°。


三口さんと交わすキスは、いつだって白ワインの味がした。

ブレのない、お決まりの味と流れだ。レストランで食事をして、小一時間ほど談笑してから、わたしたちはホテルの一室になだれ込む。

身体を洗うことはしない。化粧を落とすこともしない。

忙しない。始まりはとても性急だ。

なのに行為の一つ一つは、とてもゆっくりだった。

指の一本一本。まとめずに分けて彼の温度が触れていくから、わたしの指は五本あるんだ、なんてことを再認識してしまうくらいに。

まだ数回だけれど、いつも思う。

三口さんとのセックスは、小さな波のようだ。

決して無理やり、わたしを呑み込んだりしない。意志があれば、いつだって抗える。

奪われる感じがない分、自分で選択させられている気がする。

わたしはこの行為に、自分から手を伸ばしている。

自ら差し出して、鼻にかかった高い声を上げるために、自ら口を開く。


「ーーあ」


声帯が震える。うごめくわたしの下で、シーツが波立つ。

白い波。もがいて動くほど、どんどん沈んでいくね。

気がつけば海の底。

繋がった状態で言われる「愛してる」は、いつもどこか遠い。

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