溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
椀物も和食の盛り付けの基本である、五色が使われていて目にもおいしい。
テーブルに並んだ料理を見回して感動する私に、桐谷主任が目を細めた。
「いい反応だね。料理は目でも楽しむものだから、こういうお店に来るのも勉強になるでしょ。ほら、冷めないうちに食べよう」
その言葉になるほど、と思う。この人、本当に凄い人だな。この人が優秀たる所以は、こういうところにあるんだろうな。
もしかして、私のためにここに連れてきてくれたのかな。行き詰まってるなんて言ったから、気を使ってくれたのかもしれない。
私、ちょっと桐島主任のこと誤解していたみたいだ。仕事中はいろんなしがらみがあるって言ってたし、ちょっと目つきが悪いけどいい人なのかも。
「ありがとうございます。すごく勉強になります。いただきます」
手を合わせると、桐島主任も手を合わせて料理に箸をつける。
「……んー、美味しい」
「だろ? ここは、なに食べても外れがないんだ」
一口食べて、素直な感想を漏らした私に、桐島主任が微笑む。なんだろう、これ。
美味しい料理に、めったに笑わない主任の笑顔をひとり占めって、すごく贅沢な気がする。
「それに、おいしいもの食べると、元気も出るしね」
やっぱり、私に気を使ってくれたんだ。この人、優しいな。私って、人を見る目ないわ。
だし巻き卵を口に入れたところで、私が落ち込んでいた原因であるじいちゃんのことを思い出す。