溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「いや、だから私……結婚は……」
「さっきのおじいちゃんの話、聞いてた? 沙奈に幸せになってほしいのが最後の願いだって。なのに、沙奈自身がそれを望まなくてどうするの? そんなバカな男のために、自分の幸せをあきらめるの?」
彼の言葉が、胸に突き刺さる。じいちゃんの、最後の願い。この契約は、それを叶えるためだった。
だけど、私はーー。
視線を揺らす私に、主任があきらめたように深いため息をつく。身体を起こした彼が、私の頭をなでた。
「結局、お預けか。うなずいちゃったほうが楽だろうに、沙奈は本当に頑固だね。相手の男がどうのというより、自分が許せないんだね」
自分が、許せない?
ああ、そうか。そうだったんだ。私、許せなかった。人の幸せを壊そうとしていた自分が、許せなかったんだ。
私は起き上がりながら、マジマジと主任の顔を見つめた。そんな私の反応に、彼も目を丸くする。
「今、気づいたんだ。とりあえず、もう少し時間が必要なことはわかったよ。じゃ、真面目な話をしよう。おじいちゃんのことだけど……もういつ痛みが強くなるかわからないって言ってたよね?」
姿勢を正してから、コクリとうなずく。そういうふうに主治医の先生に言われている。
癌性疼痛といって、がん患者の七割がその痛みを経験するという。じいちゃんの場合は、腰痛と時々お腹に鈍痛があるみたいだ。