溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
そうなのだ。旅行から帰ってすぐ、私は主任に連れられて半ば強制的に彼の実家に挨拶に行った。
ちゃんと事情を説明してあるという彼の言葉
を信じていたのだが、そんなの嘘っぱちだった。
さすがというべき豪邸で、かなり緊張していた私は彼の両親に熱烈な歓迎を受けた。
それはまあ、ありがたい話だ。拒絶されるよりは歓迎されたほうがずっといい。
だが、桐島フーズの現社長である彼の父親の言葉を聞いて、私は凍りついた。
「やっと、東吾が身を固める気になってくれて。沙奈さんには、とても感謝しています。これからも公私ともに東吾を支えてやってください」
あれ、なんだかおかしい。たしかに、私は彼を好きだと自覚はした。が、プロポーズに対する返事は保留にしたはずだ。
なにが「大丈夫」よ。全然、大丈夫じゃないじゃない。
話が違うと隣に座る主任を抗議の意味を込めて睨むと、彼はにっこりと微笑んで私の肩を抱いた。
「俺は一刻も早く結婚したいんだけど、沙奈は優しいから。おじいちゃんのことが気がかりなんだよね」
ご両親の前で主任に噛みつくわけにもいかず、目で非難しながら曖昧にうなずく。
「安心させたいけど、お嫁にきてしまったら、戸籍のうえで浅田家におじいちゃんがひとりなってしまうから。沙奈はそれが嫌なんだよね」
「ああ、そうか。おじいさんの体調はどうなんだ? 来週にでも、ご挨拶に行かせてもらおうかな」
「最近は、腰の痛みが辛いみたい。おじいちゃんのところに行くのは、来週でいいよね、沙奈」
私を覗き込むその瞳が、拒否は許さないと言っていた。思わずぐっと唇を噛むのを見て、ニヤリと意地悪な笑みが浮かべる。