溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
この人、本気だ。『待っていてくれる』と言ったその言葉を素直に信じた私がバカだった。
それに安心しすぎて、彼がその前に口にしていたことをすっかり忘れていた。
『ギチギチに固めて、完璧に逃げ道を塞ぐ』という彼の言葉を思い出す。
本気でそうするつもりなのだと、気づいたときにはもう遅い。
逃げ道を完全に塞がれてしまった私は、それにうなずくしかない。
うなずいた私に小さくクスリと笑って、彼はどんどん話を進めていく。
誰か私のような庶民との結婚を反対してくれと願うが、桐島家のみなさんは私たちの結婚に乗り気だった。
意外なことに、主任が家に女性を連れてきたのは初めてらしい。
「何度、縁談を進めても突っぱねると思ったら。こんなかわいらしい女性を隠していたとはな」
「隠してたわけじゃないよ。俺の片思い期間が長かったから、結構浮かれてる。だから早く妻にしたいけど、彼女の気持ちも尊重したいからね」
いや、尊重なんて全然してないよね。眉をひそめる私を、彼はひたすら甘さの滲む瞳で見つめている。
「あら、まあ。東吾のそんな顔、初めて見たわ。沙奈さん、なんでも力になるから遠慮なく言ってちょうだいね」
「そうだよ。おじいさんのことも心配だろうが、沙奈さんはもううちの家族なのだから」
「そうよ、こんなかわいらしい方がお嫁さんに来てくれるなんて、うれしいわ。私、ずっと娘が欲しかったのよ」
「あ……ありがとうございます」
ああ、いろいろな意味で涙が出そうだ。なんとなく騙している気がして良心が痛む。