溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


「今、担当の者が来るわ。申し遅れましたが、私、こういう者です」

笑顔で名刺を渡されて、私も自分の名刺を出す。渡された名刺には、『広報部 係長 森田瑠璃子(もりたるりこ)』と書いてあった。

森田という姓だから、きっと経営者の一族なのだろう。そう思っていたら、主任が社長さんの娘だと教えてくれた。

「浅田沙奈さん……ね。かわいらしい人。そう、あなたが東吾の選んだ人なのね」

私を見つめる瞳には、どこか険があるように感じた。

ああ、そうか。この人、主任のことが好きなんだ。それできっと、私のことが気に入らない。

今日、私たちを出迎えたのは、見たかったのだろう。主任が選んだ女が、どんな女なのかを。

さぞかし、がっかりしただろうな。あまりにも平凡な女で。

ジロジロと不躾な視線を向けられて、思わず身をすくませる私の背中に、主任の手がまわる。

「沙奈、誤解しないで。彼女とはなにもないから。俺には沙奈だけだよ」

そのまま、私と視線を合わせるように身を屈めて小声でささやく主任に、目を見開く。

いや、ちょっ、あなたこそ……ビジネスの場でその態度はいかがなものかと思います。

「沙奈、聞いてる? 沙奈が変な誤解をしてるなら、打ち合わせなんてあとにして沙奈の誤解を解いておきたい」

「いや、それはダメです。仕事ですよ、仕事」

「俺には、沙奈の誤解をとくことのほうが大事だ」

「し、してない。誤解なんて、してません。東吾のこと、信じてます」

あまりにも目が真剣だったので、慌てて首を横に振る。私の目をじっと見ていた彼は、ふっと表情を和らげた。

それは安心したというよりは、私がそう言うことがわかっていたという表情だ。

< 128 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop