溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「ん、いい子」
頭をなでる彼の満足そうな顔を見て、あっ、と思う。悔しい、またやられた。
主任の手の内で彼の思うままに転がっている自分に腹がたって、ムッと唇を尖らせる。
「かわいい。キスしてほしいの?」
「ちがっ! ちょっ、場所考えてください!」
「はい、はい。それは帰ってからね」
クスリと笑って姿勢を正した彼を見て、その人は大きな瞳を驚いたように見開く。
「担当の方が来たようなので、失礼します。行くよ、浅田さん」
「あ、はい」
ビジネスモードに戻った主任に促されて、担当者らしい男性ふたりと挨拶を交わし応接室に案内される。
元々、主任が何度か足を運んで話はまとめてあったらしい。打ち合わせはとてもスムーズだった。
私を連れてきたのは、当日の流れをある程度把握させるためだったようだ。
「撮影は入りますが、ほとんど普通の結婚式ですから。両家のご家族様もお喜びになるでしょうね」
「うちの父は、今からはしゃいでますね。母には仕事を絡めるなんて、と怒られましたが。彼女の大切な家族に、僕たちが一緒に携わって作り上げたものを、どうしても見せたくて」
その言葉に、私は顔を上げた。そんなふうに、考えていてくれたの?
そんなこと一言も言っていなかったくせに、こんなところで種明かしなんて、ずるい。
感動して泣きそうなのに、泣くに泣けないしお礼も言えないじゃないか。
「おふたりを見ていると、結婚ていいな……と、思えますね。うん、いいパンフレットができそうです。今後とも、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
無事に打ち合わせも終わり、森田ウェディングを出てホッとしたところでふいに喉の渇きを覚えた。