溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


「主任、喉乾きませんか? 」

「ああ、そうだね。じゃあ、なにか買ってくるよ。なにがいい?」

「いえ、私が買ってきますよ。さっきもお昼奢ってもらいましたし。駐車場で待っててください」

そう言って、主任の返事を待たずに近くのコンビニに向かう。いつも出してもらうばかりじゃ申し訳ない。

これくらいなら、彼も受け取ってくれるだろうとコーヒーとカフェラテを買ってコンビニを出る。

主任が待つ駐車場に向かうため歩き出すと、男性ふたりが前から歩いてくるのが見えた。

その人物に何気なく目を向けた私の足が、その場に凍りついたように動かなくなった。

嘘でしょ。なんで、こんなところで。

相手はまだ私に気づいていない。だから今のうちに逃げなければ。そう思うのに、私の足は動いてくれない。

どうか私に気づかないで、と願うが、そんな都合のいいことがあるはずもない。

立ち尽くす私に気づいた男の目が、大きく見開かれた。

「……沙奈?」

懐かしい男の声が、私の名前を呼ぶ。昔は、それがうれしかったのに、今はそう呼んでほしくないと思う。

ああ、どうして。せっかく前に進もうとしているのに、どうして今さら私の前に現れるの?

一緒にいた男の人になにかを言って、その男は私の前に立った。

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