溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「実は、じいちゃんに心残りは沙奈の花嫁姿を見れなかったことだけだって言われて。安心させたくて、つい結婚を前提に付き合っている彼氏がいるって嘘ついちゃったんです。しかも、週末に連れて行くっていう約束をしちゃって。偽物の恋人になってくれる人がいればいいんですが……」
「浅田さん、彼氏いないの?」
「い、いませんよ。作る気もないですし。でも、じいちゃんに心残りは残してもらいたくなくて……」
はあ、と深いため息をついて料理を口に運ぶ。せっかく桐島主任が私のことを元気づけようとしてくれたのに、ちょっと湿っぽい空気になってしまって申し訳ない気持ちになる。
「それにしても、本当に美味しいですね。今度のプロジェクトでも、幸せな気持ちになれる料理を提供したいですね」
わざと明るい口調でそう言うと、なにか考え事をしていたらしい桐島主任が、はっとしたように私を見た。
「あ、ああ……そうだね」
主任は少し微笑んでから、またなにかを考え込んでしまった。微妙な空気のまま、食事を終えてお店を出る。
会計はいつの間にか主任がしてくれていて、なんだか申し訳ない気持ちになった。イケメンに悩みを聞いてもらって、ご飯まで奢ってもらうとか、どんなご褒美だ。
「すみません、ごちそうになってしまって」
「いや、誘ったのは俺だから。遅くなっちゃったから、家まで送るよ」
「え、いいですよ」
「なにかあったら俺が後悔するから、送らせて。俺の家、この近くなんだ。車で送るよ。まだ話したいこともあるし」
そこまで言われては、断る方が失礼な気がして素直に甘えることにする。