溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「じゃあ、申し訳ありませんけど……お願いします」
ペコリと頭を下げた私に、微笑んだ主任と並んで歩き出す。
桐島主任の住んでいるというマンションは、食事をしたお店から本当に近かった。
さすが、御曹司。予想通りというかなんというか……いいところにお住まいですね。
お洒落なデザイナーズマンションという感じだ。きっと上の方の階にお住まいなのでしょう。
なんだか、私の古い安アパートに送ってもらうのが恥ずかしくなったきた。そうは言っても、もう断れる雰囲気ではない。
オートロックを開けて、エレベーターで地下駐車場に下りる。主任の車は、国産の高級SUVだった。なんか、これもさすがです。
「お、お邪魔します」
「うん、どうぞ」
そろそろと助手席に座ってから、はっとする。
思わず助手席に乗っちゃったけど、よかったのかな。こんなにかっこいい人だし、彼女のひとりやふたりいてもおかしくないよね。
「あのさ、浅田さん。さっき、お店で言ってたことなんだけどさ」
ひとり、ぐるぐるとそんなことを考えていた私は、急に声をかけられてはっとする。
「え? えーっと……あ、幸せな気持ちになれる料理を提供したいっていう、あれですか?」
お店でした会話を思い出しながら、自信満々にそう答えた私に、桐島主任は苦笑いを浮かべながら首を横に振る。
「違うよ。おじいちゃんに結婚を前提にした彼氏を紹介するっていう話。偽物の恋人役、誰か心当たりはいるの?」
「そ、そんな人いるなら苦労しませんよ。それに悩んで企画書が進まなかったんですから」
「ああ、そうなんだ。高橋とかは? 仲良かったよね」
同期で同じ企画部に所属している高橋隼人(たかはし はやと)の名前を出されて、私はぶんぶん首を横に振る。たしかに、私と高橋は仲がいい方だと思う。