溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


怒りのあまり、身体が震えた。この怒りをぶつけてしまおうと、キッとニヤけた顔を睨みつける。

「ふざけなっ……んんっ!」

だけど、それは言葉にできなかった。突然唇を塞がれて、信じられない気持ちで目を見開く。

「い、や。きもち、わるっ……」

あんなに心ときめいたキスが、気持ちが悪くて仕方がない。必死に離れようともがく腕は、壁に押さえつけられてしまった。

顔を背けて逃げようとすると、顎を掴まれて戻される。痛いくらいに顎を握られて、口の中に強引に舌が入ってきた。

嫌だ、嫌だ、気持ち悪い。主任のキスとは、全然違う。彼のキスがどれほど優しいのか、こんな場面で初めて知った。

気持ち悪くて仕方なくて、涙が出てくる。絡んでくる舌から必死に逃げていると、ようやく唇が離れた。

「なあ、機嫌を直してくれよ。妻とはうまくいってないんだ。近いうちに別れるから、俺とやり直そう」

耳にかかる吐息に嫌悪感で、ゾワリと肌が粟立つ。嫌だ、これ以上触ってほしくない。彼以外に、触れられたくない。

気持ちが悪くて、吐きそうだ。

「いやだ! 触らないで!」

「沙奈、頼むよ……。ん? これは、キスマーク?」

ブラウスの隙間から、きわどい場所につけられたキスマークが見えたらしい。

絶え間なくつけられるそれのおかげで襟付きの服ばかり着るはめになっているが、男の動きが止まったことに感謝する。

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