溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


「なかなか戻ってこないから、心配した。よかった、見つけられて。……あなたは、栗山食品の佐山専務、ですね。彼女から、あなたとのことは聞いています。たしか、奥様は社長の娘さんでしたね。三人目を妊娠中、だとか」

主任の言葉に驚き、呆れてしまう。奥さんとうまくいっていないなんて嘘をついて。この人は、どこまで最低な人間なんだ。

軽蔑の目を向けると、男は忌々しげに目を逸らした。

「いい加減、ご自分の家庭を大切にされたらいかがですか? 一度、彼女に守られているのですから。行こう、沙奈。二度と、沙奈の前に現れないでください」

私の肩を抱いて、最低男に背中を向けた主任はかなり怒りを押し殺していたと思う。

きっとそれは、私のためだ。一分一秒だって、この男のそばにいたくない。そんな私の気持ちを理解して、少しでもその男から離そうとしてくれていた。

「……親の力を借りないとなにもできない坊々が、偉そうに」

男の捨て台詞に足を止めたのは、私だった。早くこの男から離れたい。でも許せなかったのだ、その言葉が。

自分のことを棚に上げて、主任を非難されることが許せなかった。

振り返って、私たちを睨みつけているその顔を睨み返す。

「東吾は、なにもできない坊々なんかじゃない。誰よりも努力しているし、実績だって残してる。桐島フーズの冷凍食品事業がシェア率トップになったのは、東吾の力なんだから。
東吾が社長になったら、桐島フーズは今よりずっと、どこも敵わないくらい強くなるわ。
なにもできないのは、あなたじゃない。
どうせ今の地位も、奥さんの力で得たんでしょう? 浮気相手に別れも告げられない、奥さんひとりも守れないあなたに、なにが守れるの?
あなたより東吾のほうが百倍……ううん、一億倍いい男なんだから!」

興奮したせいか、目からポロリと涙がこぼれる。一気にそう口にして、ゼエハア肩で息をする私を、主任はぎゅうっと抱きしめた。

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