溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


駐車場に戻ると、柱の影で主任が私を強く抱きしめてはあっと息を吐いた。

「心配した」

「……ごめんなさい。あの、コーヒー落としちゃって」

「そんなのいいよ。俺も一緒に行けばよかった。なにか、された?」

「へ?」

「ボタン、外されてる。あの男に、なにされた?」

そう指摘されてハッとする。そうだ、私……キスされたんだ。思い出した途端、ものすごい嫌悪感が襲ってきて一気に涙腺が緩んだ。瞳からポロポロと涙が溢れる。

気持ちが悪くて、吐きそうだ。思わず、険しい顔で私を見ている主任の首にすがりつく。

「キ……ス。気持ち、悪くて……東吾、キスして」

「……あの男、やっぱり潰しとけば……んっ」

待ちきれずに自分から唇を重ねると、一瞬、主任の身体が強張った。ねだられもしないのに私からキスするのなんて、初めてだ。

「キス、したい。東吾と、いっぱい」

「沙奈……」

抱えるように抱きしめられて、踵が浮いた。パンプスが脱げて、ヒールがアスファルトに落ちてカツンと音をたてる。

「んっ……はっ、と、ご」

すぐに深いものに変わったキスは、いつもよりずっと性急で激しい。なのに、それはやっぱり優しかった。

< 139 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop