溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
駐車場に戻ると、柱の影で主任が私を強く抱きしめてはあっと息を吐いた。
「心配した」
「……ごめんなさい。あの、コーヒー落としちゃって」
「そんなのいいよ。俺も一緒に行けばよかった。なにか、された?」
「へ?」
「ボタン、外されてる。あの男に、なにされた?」
そう指摘されてハッとする。そうだ、私……キスされたんだ。思い出した途端、ものすごい嫌悪感が襲ってきて一気に涙腺が緩んだ。瞳からポロポロと涙が溢れる。
気持ちが悪くて、吐きそうだ。思わず、険しい顔で私を見ている主任の首にすがりつく。
「キ……ス。気持ち、悪くて……東吾、キスして」
「……あの男、やっぱり潰しとけば……んっ」
待ちきれずに自分から唇を重ねると、一瞬、主任の身体が強張った。ねだられもしないのに私からキスするのなんて、初めてだ。
「キス、したい。東吾と、いっぱい」
「沙奈……」
抱えるように抱きしめられて、踵が浮いた。パンプスが脱げて、ヒールがアスファルトに落ちてカツンと音をたてる。
「んっ……はっ、と、ご」
すぐに深いものに変わったキスは、いつもよりずっと性急で激しい。なのに、それはやっぱり優しかった。