溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


「手首だと、綺麗にはつかないな。でも、これを見るたびに俺のことを思い出すよね。あの男に触られたのなんて、忘れて」

見ると、手首にはうっすらと赤い跡がついている。疼くそこを指でなでると、うれしいような気恥ずかしいようなくすぐったい気持ちが湧き上がる。

あの男に触られたことなんて、完全に吹き飛んでしまった。

「しかし、沙奈は男を見る目がない。あんなろくでもない男に引っかかるなんて。あの人の女癖の悪さは有名だよ」

「うっ……。そんなの知らなかったもん。それに今は、見る目あるよ」

嫌味にそう返せば、一瞬目を丸くした主任が口元を緩める。

「そうだね。俺が社長になったら、どこも敵わないくらい強くなると沙奈は思ってるんだもんな。未来の奥さんの期待には、夫として精一杯応えないと」

「お、奥さんて……。あと、さっきの。冗談だよね? 私のために会社を潰すとか」

「いや? わりと本気だけど。沙奈も言っただろ? ひとりの人も守れないような人はなにも守れないって。俺もそう思う。だから俺は、沙奈のことをなにがあっても守るよ。ま、栗山食品の社長はなかなか見る目のある人だから大丈夫。娘が惚れた相手だから役職つけたんだろうけど、あのままだったら専務のまま飼い殺しじゃないかな」

「か、飼い殺し……」

「経営は綺麗事じゃないから。俺からしたら、あの人を専務にしたのも温いね。無能な人間を上に置くなんて、下からしたら迷惑以外の何者でもないだろう?」

うわ、辛辣。でも、正論だ。仕事のノウハウはおじいちゃんに教わったと言っていたが、それもおじいちゃんからの教えなんだろうか。

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