溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

創業百年と少し。たしか、今の社長が十一代目。

桐島フーズホールディングスが、代替わりのたびに大企業に成長していった理由がわかった気がする。

先代の社長から、いわゆる英才教育というやつを受けていたんだろう。何千という人の人生を背負うために。

『東吾は、人に弱みを見せるのができない子でね。なんでも自分でやろうとして、なまじできてしまうから親にさえ頼らない。だから、寄りかかれる人ができてよかった。どうか、東吾の拠り所になってあげてくれ』

そう優しく微笑んでくれた主任のおじいちゃんの顔を思い出す。

「戻ろうか。沙奈、大丈夫?」

「うん、大丈夫。あ、でも……もう一回だけ、キスして」

なぜだか離れがたくて、離れようとした主任の腕を引っ張る。なんだか今日は、彼にたくさん触れてほしい。

「あー……もう。こっちは必死に我慢してるのに。煽るなよ」

困った顔をする彼は、小さくため息をつきながらも触れるだけの優しいキスをくれる。間近で微笑む主任を見て、やっぱりいい男だなと思う。でも……。

「……一億倍は言いすぎたかな」

なぜかポロリと漏れてしまったその言葉に、主任の片眉があがる。

あ、やばい。失言だ。私ってば、なんでそんな余計なこと言っちゃった。


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