溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

「い、いや、ちがっ。変な意味じゃないから。東吾はいい男だよ。本当に、かっこいいよ」

「なんか、すごいしらじらしく聞こえる。いいよ、別に。どうせ沙奈は、俺のこと不気味で気持ち悪いと思ってるんだもんね」

あ、拗ねた。車に乗り込む東吾のあとを追って、私も車に乗り込む。

「いや、今はそんなこと思ってないよ。東吾はかっこいいよ。めちゃくちゃいい男だよ」

「そんなこと思ってないくせに。いいよ、そんなわかりやすいヨイショしなくて」

「してないよ。本当に思ってるってば」

「……ふうん。じゃあ、あとでゆっくり教えてもらおうかな。俺のどこをいい男だと思ってるのか」

あ、れ? なんかまた、話の流れがおかしな方向にいってない?

シートベルトを締めながら主任を見ると、彼は私を見てニヤリと笑った。

「今日はあんまり遅くならないようにするから、一緒に帰ろう。それで、たっぷり聞かせてもらうよ。沙奈が俺のどこを見てそう思うのか。実に興味深いね」

あ、またやられた。ムッとして唇を尖らせた私にクスクスと笑いながら彼は車を走らせ始める。

「本当に、沙奈はかわいい。さ、戻って仕事しよう。ちょっとさぼったから、その分を取り返さないと。死ぬ気で終わらせるよ。早く帰って、沙奈と話がしたいからね」

「……ソウデスネ」

彼の策に溺れてばかりで悔しいが、この人に限っては策士、策に溺れるなんてこともなさそうだ。

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