溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

カシャカシャ、というシャッターを切る音が聞こえて撮影のことを思い出した。今のは、仲睦まじく見つめ合っているように見えるだろうか。

「指輪の交換を」

この日のために用意した……正確に言うと用意されていた指輪を、リングピローから主任が手にする。婚約指輪と同じブランドの、緩くカーブを描いた結婚指輪。

婚約指輪を購入したときには、すでにこの計画をたてていた彼は、この指輪も同時に手配済みだった。

介添人さんに手袋を外してもらって、彼の手に左手を乗せる。一粒のダイヤが輝く指輪が、左手の薬指にはまった。

今度は私の番だ。主任の指輪は、なにもついていないシンプルなもの。今度は、落とさないかが心配になって手が震える。

それを彼の左手の薬指に無事にはめ終えて、思わずほっと息をついた。

「では、誓いのキスを」

身を屈めると、主任の手がベールをあげる。私と彼の間に、なんの隔たりもなくなった。熱っぽい目で私を見つめている彼に、ドキッとする。

「沙奈、綺麗だ」

小さく呟いた彼の顔が近づいてくるのを見て、ドキドキしながら目を閉じる。

いくら結婚式とはいえ、会社の人の前でキスをするのは恥ずかしい。だからキスは、額にしてくれとお願いした。

額に柔らかい感触が触れたのは、一瞬だった。

あれ? たしか、写真を撮るから五秒くらいっていう話じゃなかった?

「ごめん、沙奈」

なぜか謝った彼の右手が、腰にまわる。ぐっと引き寄せられて、左手が私の顎を持ち上げた。

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