溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「……っ!」
唇に感じる、馴染みのある感触。カッと目を開きそうになったのを我慢したのを褒めてほしい。小さなざわめきとともに、シャッターを切る音。
ああ、これ……撮られてるんだ。多分、五秒以上は唇を重ねていた。唇を離した彼が、私を見てニコリと微笑んだ。
満足そうな笑顔に文句を言いたいのをぐっとこらえて、なんとか笑みを浮かべる。
「花嫁さん、顔が引きつってるよ。笑顔は?」
結婚証明書にサインをしながら、小声でそう言ってくる彼が憎たらしい。誰のせいだと思っているんだ。
出席者に背を向けていることをいいことに、ジロリと主任の顔を睨みつけが、彼はどこ吹く風だ。
振り返った瞬間に笑顔を作った私も、なかなか成長している。
「私は、おふたりの結婚が成立したことを、ここに宣言いたします。おふたりが今、私たち一同の前でかわされた誓約を神が固めてくださり、祝福で満たしてくださいますように」
司式者さんのその言葉で挙式が終わり、主任と腕を組んで一旦レストランの外に出る。
それまで笑顔を保った私、偉いと思う。
「本当に綺麗だよ、沙奈。例え、親の仇みたいに睨んでてもね」
「だって、ひどい! 恥ずかしいから額にしてって言ったのに」
「沙奈があんまりかわいいから我慢できなくて。だから、する前にごめんて謝ったよ」
「そういう問題じゃない!」
「まあ、まあ。唇にするキスは、きちんと意味があるんですよ。誓いの言葉を封じ込めるという意味があるんです。素敵ですよね」
私たちのやりとりに見かねた介添人さんになだめられて、うぐっと言葉に詰まる。