溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
だけど、家族だけならともかく職場の人もいるのに。だいたい、まだ契約で……あ、もう公然たる事実になっているのか。
往生際が悪いとは自分でも思うが、まだ覚悟が決まらない。釈然としない気持ちを抱えながら、ガーデンにある鐘に移動する。
「沙奈こそ、なにあれ。あの変な間はなに?」
「あ、あれは……ただ、緊張して声が出なかったの」
「ふうん。なら、今日、婚姻届出しに行こうよ」
「は? な、なんで?」
「だって、神様に誓ったよね? 夫婦になるって。俺の妻になるのが嫌で返事に躊躇したのかと思ったら違ったみたいだし。ね、もうあきらめて俺と結婚しよう」
ち、誓った……かな。あまり考えてなかったけど、たしかに結婚証明書にもサインしてる。
それにしてもこの人は、なぜそんなに私と結婚したいのだろうか。
「そ、それは……。あの、東吾は……本気で私と結婚したいの?」
「したいって、何回も言ってるよね。まだ信じてもらえないの?」
「そうじゃないけど……。私でいいのかなって。私なんかと結婚して、後悔しない?」
父から言われた『人の人生をめちゃくちゃにするような女になるのではないか』という言葉が、いまだに私のなかに根深く残っている。
このあいだ知った、主任が背負うものと覚悟。私は、それを支えていけるのだろうか。
もし、彼の人生をめちゃくちゃにしてしまったら……。