溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「沙奈、俺は……」
そのとき、レストランの中から出席者が出てきた。それをきっかけに会話が途絶えて、彼の答えを最後まで聞くことはできなかった。
これからガーデンにある『カリヨンの鐘』をふたりで鳴らし、ライスシャワーのあとお色直しをしてから会食だ。
『カリヨンの鐘』とは、組み鐘のことだ。幸せを呼ぶ、平和を呼ぶといわれており、幸福の象徴とされている。
新しい門出が幸福に満ちあふれますように、という思いを込めて鐘を鳴らすという風習が海外であるらしい。
ふと、こちらに向かってくるじいちゃんを見つけた。その姿に、思わず吹き出して主任の服の袖を引っ張る。
「東吾、じいちゃんのこと見て。写真映りを気にして頭磨いてるの」
また、歩きながら頭をハンカチで一生懸命磨いてるじいちゃんを見て、主任もぶはっと吹き出す。
「ちょっ、あれはずる……すごい光ってるし」
口元を押さえて、肩を震わせて笑っている主任に、桐島フーズの社員たちはお偉い様も含めて驚いている。
あれ? ご両親も驚いている?
「そろそろ鐘の儀式、始まりますが大丈夫ですか?」
スタッフの方に声をかけられて、主任は目をつむって大きく息を吐いた。
「ちょっと待ってくださいね。はあ、もう。みんな驚いてるな。俺がこんなに笑ってるの、初めて見ただろうから」
「そうなの? うちでは結構笑ってたじゃない」
「それは、沙奈とおじいちゃんが俺を笑わせる天才だから。親の前でもこんなに笑ったことない。もう今日は、おじちゃんのこと直視できないよ。沙奈のせいだ」
「じいちゃんのせいでしょ」
クスクスと笑い合っていると、彼の左手が私の右手を包む。その手にはまっている指輪が、太陽の光を受けてキラキラと輝いた。