溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


「いい天気。腹がたつくらい、結婚式日和ね」

「あ、あの……本日はお世話になって、ありがとうございます」

彼女が取引先の人間だということを思い出して、慌てて頭を下げる。そんな私に、彼女は苛立ったように拳を握った。

ガーデンで見たときと同じ、射るような瞳で私を睨む彼女にまた一歩後ずさる。

「……ねえ、あなた。どうやって東吾に取り入ったの? そんなかわいい顔をして、どんなすごい手を使ったのかしら。あの東吾が手玉に取られるくらいだものね」

「は? あの、私は、別に……」

「とぼけないで。私と東吾は幼なじみでね、父親同士が友人なの。婚約する話も出てたのよ。東吾と結婚するはずだったの。あなたさえ、いなければね」

私が憎くてたまらない。そんな顔で睨まれて、身動きがとれなくなる。こんなふうに明確な憎悪を向けられるのは、初めてだ。

そういえば主任が、どこぞの令嬢との婚約の話がなかったわけではないと話していた。それは、彼女のことだったのだろうか。

「昔から東吾は、完璧だったわ。勉強も運動もできて、隙なんてひとつもない。人の上に立つために生まれてきたような、本当になにもかもが完璧な、私の理想の人」

うっとりと語る彼女の主任像に、違和感を覚える。

私が知っている、私が好きになった彼はーー。

「東吾のことが、好きなの。なのに、どうして? ずっと好きだったのに、どうしてあなたみたいな人が……。父に聞いたわ。あなたのほうが入籍を渋っているって。おじい様のことも。まさか、それで東吾の同情を引いているの? それとも覚悟がないだけ? あなたなんて、東吾の隣にふさわしくないわ。家柄も、容姿も、私のほうがずっと彼にふさわしい」

彼女の言葉に、私の思考が止まる。ポロポロと涙を零す彼女を、私はなにも言えずに見つめていた。

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