溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


この人は、きっとすごく主任のことが好きなのだろう。たしかに、覚悟のない今の私は彼にふさわしくない。

なにも持たない私より、きっとこの人のほうが主任の隣が似合う。

この人の言う通り、私は彼の隣に立つ覚悟がない。いつか桐島フーズのトップに立つ、彼の輝かしい人生を、壊してしまうことが怖い。

だけど、好きで、そばにいたい。そんな中途半端な気持ちで、彼の優しさに甘えてばかりいる私よりも、きっと彼女のほうが……。

「あなたのせいよ。あなたのせいで、私の人生、めちゃくちゃよ。東吾の隣で笑っているのは、私だったはずなのに!」

私はまた、人の人生を狂わせてしまったのだろうか。人の幸せを、壊してしまっているのだろうか。彼をーー。

「……え、ちょっと。あなた、顔色が……きゃあ!」

森田さんの悲鳴が、遠くに聞こえる。私はあまりの息苦しさに、その場に崩れ落ちた。

息が、うまく吸えない。綺麗に化粧をしてもらっているから泣きたくないのに、瞳から涙がこぼれ落ちる。

私が彼のそばにいることで、傷ついている人がいる。私がいなければ、主任は彼女と結婚していたのだろうか。今よりずっと、幸せになれる、のだろうか。

なにか、間違っている気がする。でも、頭が回らない。苦しくて、苦しくて。周囲の光景が涙に滲む。

『ほら、やっぱり沙奈は奈緒子と一緒だ』

父の声が、そうささやく。呆然と立ち尽くしている森田さんの姿に、父が重なった。

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