溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
いつもの彼らしくない乱暴な物言いにちょっと驚いて、その顔を見上げる。
彼は、怒っていた。今まで、見たことがないくらいに、激しい怒りが彼の全身を包んでいる。
ギロリと効果音が聞こえそうなほどの鋭い目つきで彼女を睨んだ彼が、私をぎゅっと抱きしめた。
「自分がなにをしたかわかっているのか? 俺たちは取引先の人間だが、今日はいち顧客のはずだ。結婚式場のスタッフが、公私混同をして一生に一度の結婚式の場で、花嫁に暴言を吐いて追いつめた。それも将来、森田ウェディングを背負って立つ人間がだ。あなたの行動は、その名前に泥を塗った。その意味を、よく考えたほうがいい」
彼の厳しい言葉に、森田さんの顔が青ざめる。そんな彼女に、主任は容赦がなかった。
「こうなった以上、今回で森田ウェディングとの契約は切らせてもらう」
ハッと息を飲んだのは、彼女だけではない。今日、ずっと付き添ってくれていた介添人さんも、私を綺麗にしてくれたヘアメイクさんも、主任の言葉に固まっている。
「スタッフのみなさんには、とても良くしてもらいました。それを君は、すべて台無しにしたんだ。申し訳ないですが、その人と出て行ってもらえますか? 少し沙奈とふたりにしてください。落ち着いたら、呼びに行きます」
これで話は終わりだと言うように、彼は森田さんから視線を逸らす。最初に動いたのは、ベテランであろう、介添人さんだった。