溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「ひ、ひどい! からかったんだ!」
「いや、そういうわけじゃなかったんだけど。まさか、そんな初心な反応されるとは、予想外だった。キスのときも思ったけど、もしかして沙奈って男性経験なし?」
あまりにストレートな質問に、かあっと顔が赤くなる。
「な、なに言って……」
「その反応は図星かな? 本当、沙奈はわかりやすい。にしても、意外だな……。沙奈、かわいいのに」
ニヤニヤしながら顔を覗き込まれて、うぐっと変な声が漏れる。付き合った人が、いなかったわけではない。
初めてのキスも、その人とだった。でも私は、あの人を恋人だったと認めたくない。
「ついでにそっちも勉強しとく?」
「は?」
言っている意味がわからなくて、間近にある主任の顔を見上げる。
「どうせキスはするんだし、そっちの経験値も上げたらいいんじゃないかと思って。実に合理的、一石二鳥な案だと思うんだけど」
「は?」
いかん、意味がわからなすぎて「は?」しか言えなくなっている。だいたい、私はこの先恋人を作るつもりがないから経験値を上げる必要なんてない。
でも、そんなことを言ったら絶対に理由を聞かれる。
「……よろしく、お願いします」
それが嫌で、不本意ながらそう口にした私をじっと見つめていた主任がふっと微笑んで私の上から身体を起こした。