溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
同い年とは思えないくらい落ち着いていると思っていたけど、こうして見ると年相応に見えるな。
「さっきも思ったけどさ、沙奈って化粧で雰囲気変わるんだね。スッピンの方が、幼くなってかわいい」
隣に座った主任の言葉に、初めて自分がスッピンだということに気がついた。
し、しまった。寝床が心配すぎてそんなのすっかり忘れてた。
「ちょっ、あ、あんまり見ないでください」
「かわいいって褒めてるんだから、隠さないでよ」
慌てて顔を隠そうとする私の腕を、主任が笑いながら掴む。
「これから何回も見ると思うし。俺、スッピンの方が好みだな。そんなに化粧しなくていいのに」
「お、女にとって化粧は武装なんです。桐島主任の眼鏡みたいなものですよ」
「ああ、なるほど。そう思うと、今の沙奈ってすごく無防備なわけだ。それもなかなかそそるね」
「そ、そそ……っ、んっ」
突然唇を塞がれて、驚いて目を見開く。ガチッと分かりやすく固まる私に、少し唇を離した主任が眉を下げた。
「力抜いてよ。せっかく柔らかい唇してるんだから。手は、首に回して」
唇にキスを受けながらされた要求に、私は戸惑う。それをしてしまったら、鍵が外れてしまいそうな気がした。
何重にも鍵をかけて心の奥にしまっておいた感情が、飛び出してしまいそうな予感。このキスは取引の報酬でしかないはずなのに。
私は、もう二度と誰にも心を傾けたくはない。