溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「……どうしてそんな、泣きそうな顔するの?」
キスの合間に囁かれた主任の言葉に、私は何も言えずにただ首を横に振る。私の頰を、大きな手が包み込んだ。
やめてほしい。そんなふうに優しく触れるのは。この関係は、偽り。じいちゃんのための、契約なんだ。私が望むのは、ただそれだけ。
そんな私の気持ちなど知る由もない主任は、キスをしながら私の腕を掴んで自分の首に巻きつける。自分の意志でしたわけじゃないからセーフだ、多分。
二、三個、鍵が吹っ飛んだ気がしなくもないけど、今ならかけ直せる。
「……沙奈。君は、何を隠しているだろうね。隠されると、暴いてやりたくなるな」
「きゃあっ!」
その言葉の意味を考える間もなく、突然襲った浮遊感に私は悲鳴をあげた。
「手は、首に回しておいて。その方が歩きやすい気がする」
「え、いや。あ、え? なんで? お、下ろしてください! 重いですから!」
なぜか、横抱き……いわゆるお姫様抱っこをされてしまった私は、パニックになった。
なんで、なんで? 今の流れからどうしてこうなった?
「いや、軽いよ。俺も初めてしたけど、案外イケるもんだね。ベッドに行くから、首に手を回して?」
「あ、はい」
素直に頷いて首に手を回した私に、主任は満足そうに微笑む。
「うん、やっぱりこの方が歩きやすいな」
いやいや、待て待て。なんで私、素直に言うこと聞いてるの?
その間にも、主任は確実に歩みを進めていて、薄暗い寝室らしい部屋に入る。そして広いベッドに私を下ろした。