溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
恥ずかしいからと逃げていた頃は、食事中に居眠りして醤油をこぼされたり、歯磨きしながら寝られたりして大変だった。本当に大変だった。
あんなに大変な思いをするくらいなら多少ドキドキしようとも、この爽やかな朝には似つかわしくない濃厚なスキンシップに耐えたほうがずっといい。
「……おはよ、沙奈」
散々唇を貪られること、五分。ようやく目が覚めたのか、ふわりと微笑んだ主任に、心臓がぎゅっとなる。この人、本当にずるい……。
この顔を見ると、なんでも許してしまいたくなってしまう。
将来、奥さんになる人にもこんな顔を見せるだろう。それを思うと、胸の奥がズキリと痛んだ。
「おはよう。しっかり起きた?」
「起きた。沙奈のおかげで最近、とても目覚めがいい」
「そ、それはよかった」
あ、あれで……? 嘘でしょ?
いろいろ突っ込みたいのを我慢して立ち上がると、ずんと肩に重みがかかる。
振り返れば、私に抱きついた主任がいたずらっ子のような顔で私のことを見つめている。
「洗面所まで連れてって、沙奈」
「ちょっ。な、なにを甘えて。子どもじゃないんだから、自分で……」
「そう言いながらも、沙奈は俺を甘やかしてくれるだろう?」
ああ、もう。本当にずるい。なんだかこの人の思うツボだ。
のしかかる主任をずるずると引っ張って歩くと、笑っている彼の吐息が耳にかかる。