溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「なんだよ、つれないなぁ。なあ、浅田。俺と付き合うっていうの、考えてくれた?」
ほら、きた。最近、顔を見ればこの話だ。何回も断ってるのに、なんでわかってくれないかな。
私なんぞに構わなくても、それなりにモテるでしょうに。
「考えてない。考えるまでもなくないから」
「なんでだよ。お前、せっかくかわいいのに枯れすぎだから。俺が潤いをやるって言ってんの」
いらないわ、そんなもん。なぜにこいつはこんなに上から目線なんだ。
「余計なお世話です」
「なあ、どうせ彼氏いないんだろ? 俺がなってやるって。いいから、付き合ってみようぜ」
ああ、もう。なんかすごくイライラしてきた。もう、嘘だけど彼氏がいるって言っちゃおうかな。
なんだかんだお世話してるし、名前を明かさなければこれくらいの追加契約は許されるだろう。
「あのさ、高橋。私、付き合ってる人が……」
ひとりで納得して、高橋にそう告げようとした私の右肩に、大きな手が触れた。私の背後を見て、唖然としている高橋の顔が目に入る。
「沙奈、イヤリングが玄関に落ちてたよ」
そのささやきとともにデスクに置かれたのは、コットンパールのイヤリング。それはたしかに私のものだ。
ハッと耳に触れると、つけていたはずのそれが左耳にない。
肩を抱いている人物を振り返ると、思っていたより近くに眼鏡をかけた会社仕様の姿の主任があった。
だけど、表情が……恋人モードなんですけど。なに、そんな甘く微笑んじゃってるんですか。ここ、会社ですよ。