溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
ていうか、この人、今……名前で呼んだ?
それに玄関に落ちてたって、主任の家から通勤しましたって言ってるようなものだよね。
思わず立ち上がって、いまだに笑みを浮かべている主任の腕を掴む。
「き、桐島主任。ちょっとお話が」
呆然としている高橋を残して、空いている会議室に『使用中』の札をかけて中に主任を押し込む。
「ちょっ、しゅ、しゅに……主任! な、なに考えてるんですか」
「うん? だって、今の沙奈の恋人は俺でしょ。俺としても、自分の恋人が他の男に口説かれてるのは面白くないからさ。沙奈も付き合ってる人がいるって言おうとしてたよね」
「そ、そうですけど。これはあくまで契約なんですから。変な噂が広まったら、主任が困るでしょう?」
「俺は困らないよ。別に沙奈との噂が広まってもなにも問題はない。沙奈が困るなら、俺から高橋に口止めしておくよ」
そう言いながら、主任が私に顔を近づけてくる。思わず身体を引くと、壁に背中があたった。
「ちょっ、しゅ、主任。なにをしようとしてるんですか?」
「なにって、キスだけど。こういうの、職場恋愛の醍醐味じゃない? 会議室で隠れてキス。せっかく沙奈が密室に連れ込んでくれたから、これも経験しておこうと思って」
断る間もなく、顎を掴まれて唇を塞がれる。チュッチュッと会議室に響くリップ音が恥ずかしい。
そして、当たり前のようにキスが深くなり、それに自然と応えてしまう自分が恨めしい。