溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「浅田さん、嘘下手すぎでしょ。同期なうえに、君の上司になって三年も経つのに、接点が……ねえ。まあ、いいか」
そう言うと、私の作りかけの企画書を保存してパソコンの電源を落としてしまう。
「じゃ、行こうか。鞄とコート、持ってきて」
「は、はい」
いつもの顔に戻った主任の有無を言わさぬ口調に、つい素直に言うことを聞いてしまう。私がコートを着たのを見て、彼は口元だけで笑って歩き出した。
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桐島主任が私を連れて入ったのは、会社から電車で二駅離れたところにある、高そうな日本料理のお店だった。
個室に通されて、向かい合って座るとコートを脱いだ主任はメニュー表を開く。
「浅田さん、好き嫌いはある?」
「い、いえ。特には」
「そう。じゃあ、俺が選んじゃってもいいかな。明日も仕事だから、お酒はやめておくか」
よく来ているお店なのか、慣れた様子で料理を
注文していく。その姿を見つめながら、どうしてこんなことになったのかと考える。
なぜ私は、あの桐島主任と、しかもふたりっきりでこんなところに?
こんなところ、女子社員に見られたらあらぬ誤解を招いてぶっ飛ばされる。ただでさえプロジェクトチームに選ばれたことで当たりがきつくなっているというのに、お、恐ろしい。
そう思ったら、急に落ち着かなくなった。キョロキョロと周りを見回してから、そういえばここは個室だったとやっと気づく。