溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
主任は笑っていた。恐ろしいほど、完璧に。壮絶な凄みを感じさせる笑顔に、ヒッと小さく悲鳴が漏れる。
「……いいよ、猶予をあげる。でもね、沙奈。ここに逃げ場なんて、どこにもない。今日は、君が隠していることを洗いざらい話してもらうよ」
ああ、やっぱり良からぬことを企んでいた。にっこりと笑った主任が、とても恐ろしい。
言葉もなく青ざめる私に、彼は意地悪く笑みを深めて顔を近づけてきた。
「顔色が悪いね。一緒に入ってあげようか?」
「け、結構です!」
「そう? それは、残念」
少しも残念に思っていなそうな声でそう言って、主任は私を壁に追いつめる。
「温泉に浸かりながら、せいぜい覚悟を決めておくんだね。今夜は、口を割るまで寝かせないから」
頰にキスをした彼が、耳に唇を寄せる。
「全部、吐いてもらうよ。どんな手を使ってでも、ね」
脳に直接響いてくるような低い声に、吐息に、頭がしびれる。耳を甘噛みされて、小さく身体を震わせる私に、主任はふっと微笑んだ。
私の反応に、脅しは充分と判断したのだろう。優しく頭をなでた主任が、露天風呂に繋がる扉を開けてくれる。
背中を押されて、顔を引きつらせながら脱衣所に入ると、主任はにっこりと微笑んだ。
「ゆっくり入っておいで」
カラカラと音をたてて扉が閉まる。ひとりになった途端、足から力が抜けてしまいヘナヘナとその場にしゃがみこんでしまった。