溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
この旅行の一番の目的は、もちろんじいちゃんのためだろう。きっと最期の旅行になるから。
でも、それだけじゃなかった。
あれ以来、なにも触れてこなかったのは、私がどうにかしてその場から逃げることがわかっていたからだろう。
きっと、最初からこうするつもりだったんだ。逃げ場のないこの状況で、あの人は私を追求する気だ。
「……怖っ」
すごい策士だ。絶対、敵に回したくないタイプ。いや、今現在私はそんな彼の敵に回ってしまっているのだ。
その事実に、ぶるりと身体を震わせる。正直、あの人に勝てる気がしない。だけど、絶対に口を割りたくない。
「……さて、どうやって逃げようかな」
自分でも、往生際が悪いとは思う。主任にはじいちゃんにもすごくよくしてもらっているし、本当に感謝している。
でも、それとこれとは話が別だ。覚悟なんて決める気は毛頭ない。
気持ちのいい温泉に浸かりながら、私は主任の追求から逃れる術を探していた。
このとき、私はまだ勝算はあると思っていた。
私は舐めていたのだ、彼のことを。桐島東吾という人の本当の恐ろしさを私が知るのは、ほんの数時間後のことーー。