溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

「それにこちらからだと沙奈の顔がよく見えますから。僕、おいしそうにご飯を食べる沙奈が好きなので」

「いやぁ、ラブラブだのぉ。じいちゃん、火傷しそう」

ペチッと頭を叩きながら笑っているじいちゃんの隣で、私は顔を引きつらせる。こんなの嫌がらせ以外の何者でもない。

だって、あの人の目、笑ってない。めちゃくちゃ怖いんですけど。

「お、おいしそうだね! 食べようか! すっごくおいしそうだね、じいちゃん」

「そうだな。食べっぺ」

薄笑いを浮かべたまま、まだ私を見つめている主任から目を逸らして、箸をとる。

「いただきます」

しっかりと手を合わせて、目の前に置かれたとても豪勢な料理に箸をつける。

ふんだんに海の幸が使われた料理は、ほっぺたが落ちそうなほど美味だ。伊勢海老、ぷりぷりでおいしすぎる。

さすが、主任のチョイスしたお宿。部屋や温泉だけじゃなく料理も絶品だ。

「沙奈、沙奈。このお肉口に入れたらとろけたわ。たまげたなぁ」

海の幸だけじゃなく、じいちゃんが食べている霜降りのお肉も、すごくおいしい。

「うん、おいしいね、じいちゃん。ほっぺた落ちそう」

「気に入ってもらえたなら、よかった」

ニコニコと微笑みながら、主任は一心に私を見つめている。

『おいしそうにご飯を食べる姿が好き』という設定を忠実に守っている……と見せかけての新手の嫌がらせだ。

< 84 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop