溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「じいちゃん、私のお肉一切れあげるね」
「いいのか? じゃあ、沙奈にはこの海老やっぺ。沙奈は魚介が好きだもんなぁ」
そんな主任を無視して隣に座るじいちゃんと物々交換をしていると、私の前に主任が箸につまんだ伊勢海老を差し出す。
「そんなに魚介類が好きなんて知らなかったな。僕のもあげるよ」
これは、食べろってことだよね。世に言うところの、あーんをしろと。
チラリと主任を見れば、ものすごく楽しそうに笑っている。この人、本当にいい性格をしている。
くっ、じいちゃんまでニコニコしてる。なんだか負けた気がしてムカつく。ムカつくけど、食べないわけにもいかない。
屈辱を感じ、主任の顔を睨みながら差し出されたそれを口にいれてモグモグと咀嚼する。
お、おいしい。口の中に広がる甘みがたまらない。あまりのおいしさに頰を緩ませると、主任がぷっと吹き出した。
「も、ほんと、沙奈は、かわい」
だって、伊勢海老に罪はないもの。あ、もう一口くれた。本当においしい、主任、笑いすぎ。
「……ラブラブだのぉ」
笑いながらも嫌がらせのように私から視線を外さない主任と、ニヤニヤしているじいちゃんに挟まれて、なんとも微妙な気持ちで食事を終えた。
少しすると仲居さんがやってきて、お膳を下げてくれる。上げ膳下げ膳て、本当にありがたいよね。
「ありがとうございます、おいしかったです」
「お気に召していただけたなら、よかったです。では、あちらにお酒のご用意がありますので。ごゆっくりお楽しみください」
綺麗にお辞儀をして仲居さんが出て行くと、主任が立ち上がって窓辺に置いてあるソファに向かう。