どんな君でも、愛おしくてたまらない。



大粒の雫がこぼれる前に右手の甲で拭って、代わりに笑みをこぼす。


皆瀬くんと出会えてよかった。




「あのさ」


「?」


「そろそろ、『皆瀬くん』呼びやめない?」


「え?」



わたしよりも、なぜか皆瀬くんのほうが驚いた顔をしていた。



皆瀬くんは、わたしから手を放して、口元に当てた。



「俺、なに言ってんだ……?」


その小さな小さな呟きを、わたしは聞き取ることができなかった。




「皆瀬くん、どうしたの?」



……あっ、この呼び方をやめるんだっけ。


じゃあ、「皆瀬くん」じゃなくて。



「た、環、くん?」



初めて男の子を名前で呼ぶから、緊張する。



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