どんな君でも、愛おしくてたまらない。





すれ違う人に鋭い眼差しを浴びせられながら廊下を歩き、教室の前までやって来た。


動機が激しくなっていく。




……あとは、扉を開けるだけ。



扉に、手を伸ばす。

しかし。



「まさかあの噂が本当だったとはな」


「だから言ったろ?矢崎が転校してきた前日に、職員室で腕のこと盗み聞いたんだって」



クラスの男子の声にビビって、またしても動きを止めてしまった。



そっか。


先生に打ち明けたとき、クラスメイトに秘密を聞かれてたから、噂が出回ったんだ。




男子たちに続いて、女子たちもわたしの話題を話し始める。



「やっぱ今日も矢崎さん来なかったね」


「もう来ないんじゃない?」


「来なくていいじゃん」


「クラスにバケモノがいるとか、怖いもん」




ここで何もせずに逃げたら、今までと同じだ。


怖さを捨てられなくても、扉は開けられる。



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