溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
パーティの始まり
パーティは、ありすの父が経営する
会員制のホテルの一室で行われた。

あまり大きな部屋ではない。
だがその部屋は部屋の利用者にしか使えない
中庭に続いており、
ありすはここの庭がお気に入りだ。

昔から父親が大事な友人や取引先と会う時に、
利用する部屋で、
ありすも小さな頃から何度もここへ来ている。

(まあ、安心できるのは、
このパーティの会場が私がよく知っている場所
ってことだけかもしれないけれど……)

恋に憧れている、などと橘に言ってみたが、
実のところ、ありすは恋愛対象になりそうな男性と、
親し気に話したことなどない。

それどころか年頃の男性の
知り合いすらほとんどいない状態だ。

「あの……私、パーティで
何を話したらいいんでしょうか?」
会場までついてきた橘に、
ありすは不安そうな顔をしたまま話し掛ける。

すると、そんなありすを見つめて、
橘は不可思議な表情で唇を歪めて、瞳を細める。

「……話し掛ける必要はありません。
向こうからありす様に、話し掛けてくるのです。
ですから、お嬢様は気が向いたら
それに笑顔で頷くだけでいいのです」

何処か冷たい様な橘の言い方に、
ほんの少しだけ違和感を感じたものの、
慣れない自分から話し掛けなくてもいい、
と言われただけで、ありすはなんだかホッとする。

「わかりました。ありがとうございます」
にっこりと笑みを浮かべて答えると、
橘はにっこりと笑って、慇懃に頭を下げる。

「私も、会場の方に居りますので、
困ったことがあれば、私に声を掛けてください」

その言葉にありすは少しほっとすることが出来、
そして、ホテルの人間の案内で、
控室から出て、パーティの会場に向かったのだった。

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