溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
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部屋に入ると既に何人もの男女が会場にいた。
しかもありすと同世代か、少し上の人ばかりで、
だからどの相手が、ありすの父親がありすに
出会わせたい、と思っている相手かどうかはわからない。

じんわりと汗を掻きかけていた手のひらを
ぎゅっと握り、ちらりと視線を送ると、
壁の際の一番目立たないところに
そっと橘が立っているのに気づく。

その事にほんの少しだけホッとして、
改めてありすは辺りを見渡した。

(…………どうしよう)
会話がしやすいためにだろうか、
立食パーティのようになっていて、
水槽の中を泳ぐように、
給仕の男性がゆっくりとトレーに
飲み物を載せて歩いてくる。

男性が渡してくれた綺麗な色の
ノンアルコールカクテルを手にもつと、
知らない男が声を掛けてくる。

「……久遠寺社長のお嬢様ですか?」
どうやら父親の知り合いらしい男性が、
アレコレ話しているけれど、
なんだかその言葉は上滑りで、
ありすの事を可愛いと言ってみたり、
ありすの父で、ホテル王と言われている、
久遠寺浩一の事を尊敬していると話してみたり……。

(男性との会話ってこんなに退屈なんだろうか……)
ぼうっとありすが見上げると、男性は
どこか困ったような表情を浮かべる。

「ありすさんですか?」
その様子を見て、また新しい男性が寄ってくる。
そしてまた似たような会話……。

流石に何か答えないといけないかと思って、
ふと不安になって橘の姿を探すと、
先ほどまでいた辺りには姿が見えなくて。

「……橘さん?」
ふと、橘の背中が、窓際に見えた気がして、
ありすは、男性たちに軽く会釈をすると、
その場を立ち去り、
スーツの背中を追いかけてしまう。
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