溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
そのまま、夜風が気持ち良くて、
ありすが、空を見て歩き始めたその時。

「うわっ」
何かに躓きそうになって、
咄嗟に手を前に伸ばす。

「ちょっ……」
何かが暗闇で動いて、ありすが転びそうに
なったところをぎゅっと抱き留めてくれた。

「……びっくりした」
少しだけ高いところから気さくに
声を掛けるのは、
追いかけていたスーツ姿ではなく。

代わりに何か心地よい和風の香りが漂う。
ありすはゆっくりと顔を上げて、
自分が顔を押し当てていたのが、
着物姿の男性の胸だったことに気付いた。

「わわっ」
びっくりして慌てて、体を離そうとすると、
逆にそりすぎて、反対側に倒れそうになった。

「危なっ……」
結果として逆に引き寄せられて、また
その男性の胸元に顔をおとしそうになってしまう。

でも、その直前、男性が
礼儀正しくちょうどいいところで、
体勢を整えてくれた。

「すみません。こんなところで
屈んでた私が悪かったんです。
──大丈夫ですか?」

そういうと、和装の男性は、
ありすに向かってにっこりと笑いかけた。

「初めまして、
私は那賀園 駿(なかぞの しゅん)と申します。
貴女も退屈になって
外に出ていらしたんですか?」

切れ長の端正な瞳を細めて、
首をかしげて、ありすの顔を覗き込む。

(綺麗な……人)
駿、と名乗った男は整った顔立ちをしていた。
思わずぼうっと見惚れそうになる。

「あっ……あの。私、久遠寺ありすです」
次の瞬間、相手に名乗らせたままだった
事に気付いてありすは慌てて頭を下げる。

「ああ……貴女が今日のヒロインですね」
ふっと笑った彼は、手に持っていた何かを
そっと、ありすの手に持たせる。

「今日の記念に。貴女に差し上げます」
次の瞬間、男性はふわりと瞳を細めて
可憐な花のように笑み崩れる。
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