溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです

「……あの、橘さんも一緒に食べてくれますか？」
目の前の料理もティセットも、一人で食べるには多すぎる。
そう思ってありすが尋ねると、
橘は一瞬目の前の料理を見て、困ったような顔をする。

「残った物は折詰にして持ち帰らせてもいいですが……」
そう返す橘を見上げて、ありすは小さく顔を左右に振った。
「多分、今食べた方が美味しいし、
くれた方にもそうしないと申し訳ないから」

ありすは橘が用意した席に座り、
食事の準備を始める様子をじっと見つめる。

「橘さん。向かいに座って食べてくださいね」
にっこりと笑うありすに、橘は困ったような笑みを浮かべ、
小さなため息をついて。

「お嬢様の申しつけなら、お付き合い致します」
準備を終えると、
すっと静かにありすの向かいの席に腰を下ろした。

「ふふ。なんだかおかしな感じですね」
ありすはそう言って笑うと、箸を取る。

「デザートは後ですね。先に食事をいただきましょう」
ありすの言葉に、おずおずと伸ばした橘の箸遣いは
思った通りとてもきれいだ、とありすは思う。

（この人はどんな人なんだろう？）
そう思いながら、小さな手毬寿司を口に入れると、

「わっ……美味しい」
思わず笑み崩れてしまった。
そんなありすを見て、橘はまだ困ったような苦笑を浮かべ。

「藤咲様は美味しいものをご存じのようですね。
では、まずは藤咲様とお会いになられますか？」

「正直、よくわからないんです。
ただ、プレゼントを下さった方々とは
少しだけお話出来たので……」

「でしたらお会いになられてみたら
いかがでしょうか？
どの方も、お嬢様にふさわしい男性だと
そう思いますよ？」

橘は首を微かにかしげて、ありすの様子を伺う。