溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
ふと目を覚ますと、ありすは小さく笑みを浮かべた。
それは子供の頃の記憶だ。

(しゅんくんは今どうしているんだろう?)
幼い日に何回か出会った男の子。
自分よりは年上の、優しい男の子の記憶が、
今でもありすの心から消えていない。

(そういえば、昨日の三人。
全員「しゅん」って名前だったんだよね……)

だから、懐かしく感じたのかもしれない。
まあ、そのうちの誰かが「しゅん」くん、なんて
そんな都合のいい展開はないのだろうけど。

(今度聞いてみようかな?)
ありすがそう思って、ベッドから立ち上がると、
コンコンと控えめなドアノックの音が聞こえる。

「はい、起きてます。どうぞ」
そう声を掛けると、入ってきたのは
既にしばらく前から起きていたのであろう
普段通りの執事服に身を包んだ橘で、
ふわりと柔らかい笑顔を浮かべ、ありすに声を掛ける。

「朝食の準備が出来ております。
ご準備が出来次第、下に降りていらしてください」

「はい。あの……橘さん、おはようございます」
そう朝の挨拶をすると、
何故か橘はびっくりしたような顔をして、
それからふっと瞳を緩めた。

「おはようございます。お嬢様」

その表情は朝の光の中で、
とても綺麗に見えたのだった。
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